
Our Research
私たちの研究室では、教授の清野が消化器外科で臓器移植とがんの診療に携わって来た経緯から、移植とがんという2つの大きなテーマを中心に、それらに関係する免疫学ならびに周辺生物学を研究しています。以下に、我々が行っている研究内容についてご紹介します。
移植免疫学
多能性幹細胞を用いた移植医療
ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞は、神経細胞や心筋細胞など、さまざまな細胞になる潜在能力をもった細胞で、その利用は新しい移植医療において非常に期待されています。多能性幹細胞を用いた細胞・組織移植は度々再生医療とも呼ばれます。iPS細胞を用いた移植医療の理想は、患者自身の細胞から作製したiPS細胞から必要な細胞・組織を分化誘導し、移植するという方法です。しかしこの場合、脊髄損傷など緊急に細胞移植を要する疾患には適用できません。また、作製したiPS細胞の品質や安全性の確認等には多大な費用と時間を要します。そこで一つの方策として、様々な試験を経て安全性を確保したiPS細胞を保管するiPS細胞バンク構想が進んでいます。また、HLAをKOした低免疫原性iPS細胞なども報告されています。
iPS細胞を用いる移植医療でも免疫制御は重要
iPS細胞バンクでは、様々な種類のHLA型背景をもつiPS細胞をバンク化することで、免疫学的拒絶問題に対する配慮がなされています。また、ゲノム編集技術によりHLAを欠失させたりNK細胞からの攻撃を弱めたiPS細胞も作成されています。しかし実際には、非自己由来の細胞はHLA以外にも他の成分の不一致により移植片は拒絶されてしまいます(そういった抗原をマイナー抗原と呼びます)。私たちはまず、このマイナー抗原のみによって拒絶反応が起きるマウス移植実験系を確立しました(Sci Rep 2020)。
その後同モデルを用いて、従来の免疫抑制剤を用いた場合の適切な免疫抑制療法、また免疫寛容の誘導が可能であることを明らかにしました(Inflamm Regener 2022)。現在はさらに内容を進め、iPS細胞から免疫寛容源になるような細胞を作成し、細胞療法によって免疫寛容を誘導することを目指しています。最近、iPS細胞から誘導した造血幹・前駆細胞を用いたmixed chimerismにより免疫寛容を誘導することに成功しました(Am J Transplant 2023)。

