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Ten-Year Summary 3

A Decade Report of Our Laboratory

腫瘍免疫研究-4T1-Sapporo株の発見

 腫瘍免疫についても、もちろん興味を持って色々と調べてはいた。がん細胞を初期化(iPS細胞化)して、それから抗原提示細胞を作製すれば抗腫瘍免疫を高めることができるのではないかと考え、そのような実験を行なっていたのはこの頃(10年前)である。しかし、なかなか思うような結果は得られなかった。この頃は、どのような細胞、分子に着目して研究を進めていけばよいか、手探りの状態であった。

 そんな中、偶然ではあるが4T1-Sapporoと我々が名付けたマウスがん細胞株を見出した。4T1はBALB/cマウス由来のトリプルネガティブ乳がん細胞株で、非常に悪性度が高い。また、一般的には低免疫原性であると言われている。そこで、抗腫瘍免疫を惹起しないネガティブコントロールとしてこの細胞を用いようとし、放射線照射してワクチンのようにマウスに接種した。すると驚いたことに、ワクチン接種されたマウスに生きた4T1細胞を打っても腫瘍が形成されない。最初は実験の失敗だと思ったが、何度やっても同じ結果である。論文を調べると世の中に出回っている4T1ではこのような現象は見られないことになっている。そこで、大元のATCCから4T1を再度入手し同様の実験を行うと確かに報告通りワクチン効果を発揮しない。とすると、我々の手元にある4T1は(何故だかは分からないが)何らかの変異を起こしてワクチン効果を持つようになった可能性がある。そこで、我々の手元にあった株を4T1-Sapporo(4T1-S)、ATCCから導入し直したものを4T1-ATCC(4T1-A)と名付けて現在に至るまで比較検討している。第2外科から当ラボに来ていた阿部紘丈君が当初の解析を行い、4T1-Sによるワクチン効果はヌードマウスでは見られず、T細胞依存的な現象であることを見出している(Abe H et al. Identification of a Highly Immunogenic Mouse Breast Cancer Sub Cell Line, 4T1-S. Human Cell 29: 58-66, 2016)。現在は詳細な遺伝子発現解析を行なっており、今後さらに発展させる必要がある。

腫瘍免疫研究-腫瘍微小環境、ミエロイド系細胞へ注目するまで

 我々の腫瘍免疫に関する試行錯誤はまだまだ続いていた。そのような中、いつくかの研究の実現と出会いにより、腫瘍微小環境におけるミエロイド系細胞に注目するようになり、それは現在にまで続いている。

 まず、聖マリアンナ医大時代から行なっていた研究であるが、メディネット社との共同研究で、ガンマデルタT細胞の抗原提示能について研究を行なっていた。非常に面白いことにガンマデルタT細胞は活性化するとあたかも樹状細胞のような形質を示す。もともとガンマデルタT細胞は強い細胞傷害活性を持つため、おそらくはウイルスに感染した細胞やがん細胞を殺し、そしてその抗原を自分自身で提示するのだと考えられた。このガンマデルタT細胞の特徴的な振舞いを支える分子メカニズムとして、ミエロイド系細胞の転写因子であるC/EBPαが重要であることを、(株)メディネットから出向して研究を行なっていた武藤真人君が明らかにした。論文はCancer Immunology, Immunotherapyに掲載され(MutoM et al. Cancer Immunol Immunother 61: 941-949, 2015)、武藤君はこの業績により博士号を取得した。

 次に、北大第2外科の武内慎太郎君の研究である。彼は正式に我がラボに送られてきた訳ではなかった。おそらく、第2外科の研究室で実験を行う外科の大学院生だったのだと思う。しかし、前述の第2外科の阿部紘丈君が既に当ラボで研究していたことから、いつの間にか出入りするようになり、カンファに出て発表し、共に討論し、研究を進めていくようになった。しかし、最後まで所属は第2外科のままであったと思う。双方、細かいことには拘らず、実を大事にする良い関係であった。武内君は持ち前の集中力とセンスで、短時間で膵がんに関する研究を完成させた。当時GM-CSFは膵がんにおいて炎症を惹起し、抗腫瘍に役立つと考えられていた。しかし彼は、GM-CSFは逆に免疫抑制性のMDSCを誘導しT細胞応答を抑制することを見出した。特にGM-CSFの発現は化学療法により上昇し、臨床膵がんおいてもこの現象が確認された。論文は2015年にCancer Research誌に発表された(Takeuchi S, et al. Cancer Res 75: 2629-2640, 2015)。

 この頃、当ラボは日本語と英語とアラビア語を自在に操るMuhammad Baghdadi博士をスタッフとして迎えていた(当初助教、後に講師)。シリア出身のムハンマドはもともと遺制研の別のラボで研究しており、腫瘍微小環境、中でもミエロイド系細胞に注目した研究で素晴らしい成果を上げていた。彼は着任早々、上記2本の論文をまとめる上で力を発揮した。また、中々完成することが出来ずにいたNKT細胞に関する論文の作成でも大いに活躍してくれた。NKT細胞はIFN-γを産生することで抗腫瘍免疫応答に寄与する。NKT細胞のサイトカイン産生メカニズムは解明されているようでわかっていない点も多かった。我々は、時計遺伝子でもあるBhlhe40がT-betのco-factorとして働くことでNKT細胞のIFN-γ産生、ひいては抗腫瘍応答において重要な役割を果たすことを世界で初めて明らかにした。北大第2内科から当ラボに来ていた神田真聡君と聖マリアンナ医大産婦人科から国内留学で来ていた山中弘之君が実験を完遂し、ムハンマドが論文作成で力を発揮した(Kanda M & Yamanaka H et al. Transcriptional regulator Bhlhe40 works as a cofactor of T-bet in the regulation of IFN-γ production in iNKT cell. PNAS 113: E3394-402, 2016)。

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2014年9月​ 研究室旅行
2015年3月​ 卒業式
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2015年12月​ 忘年会
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2016年6月​ アウトリーチ活動@河合塾
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